「紅楼夢」

曹雪芹著/伊藤漱平訳
平凡社、他

 

 中国文学の名作「紅楼夢」です。主人公の男性とその周囲の女性の物語である事から、日本の「源氏物語」に比べられますが、う〜ん、どうなんでしょうねぇ?
 因みに、「紅楼夢」の成立は清の乾隆56年(1791)だそうで、現在伝えられている全120回の前80回は曹雪芹作、後40回は高蘭墅の補作のようです。私などは、後40回で「え〜、何で?」と思ってしまうシーンがあります。曹雪芹作が読めなくて、ちょっと、残念。
 中国では「紅痴」とか「紅迷」などの言葉があるぐらい非常に愛されている物語なのですが、日本における知名度は、かなり低いので、「紅痴」の私は残念です。
 今回は、初心者用にあらすじと人物紹介。マニア用に「私の紅楼夢の読み方」で解説したいと想います。

◎物語
 金陵(南京)の名家、世襲貴族の賈(か)家の貴公子宝玉は、玉を口に含んで生まれてきた美少年であるが、「男は汚い、女の子はきれい」等と言い放ち、学問(科挙用の)嫌いの変わり者として知られている。
 賈家には宝玉の姉妹達(主に金陵十二釵と呼ばれる)が大勢住んでおり、中でも宝玉が一番敬愛して止まないのが、父方の従妹・林黛玉(りん・たいぎょく)である。黛玉は詩作に優れた美少女であるが、病弱で神経質で、お互いに想い合いながらも宝玉とは素直になれないでいる。身寄りのない彼女はその事についても劣等感を抱いている。
 片や宝玉の母方の従姉に薛宝釵(せつ・ほうさ)がいる。富豪の家に生まれ、人当たりよく万事に聡明な少女である。黛玉は宝釵を慕いながらも、自分と正反対の彼女を意識せざるを得ない。
 数年後、宝玉の姉の元春が皇帝の妃となった。その里帰りの為に賈家は豪奢な別邸―大歓園を築造する。そして里帰りの後、宝玉や姉妹達がそこに住む事になった。
 見た目は華やかな生活だが、その実、賈家の財政は破綻寸前であった。そして、その内実も決して道徳的とは言えないものであった。相姦、汚職、賄賂、高利貸、殺人‥‥様々の悪徳が、隠し切れない処まで来ていた。
 その中で宝玉や姉妹達の運命は?
◎人物紹介(ホンの一部です。)

●賈宝玉
(か・ほうぎょく)

本編の主人公。生前は仙界の神瑛使者。女禍の鍛えた石の変じた玉と共に生まれる。変わり者と言われる美少年。教養はあるが勉強嫌い。

●林黛玉
(りん・たいぎょく)


ヒロイン。金陵十二釵の一人。詩作に優れた美少女。病弱で神経質。生前は仙界の絳珠仙草で、神瑛使者に甘露を与えられて仙女になった。その恩返しを与えられた甘露の分だけ涙で返している。つまり、涙を返すと‥‥。

●薛宝釵
(せつ・ほうさ)

金陵十二釵の一人。富豪の家に生まれた、人当たりよく万事に賢明な少女である。黛玉とは対照的なタイプ。後に宝玉の妻になるが‥‥。

●賈政
(か・せい)

栄国邸賈赦の弟。その才を買われて主事と言う高官職につく。一族中最も謹厳な人物。宝玉の厳しい父。

●王夫人

宝玉の母。王煕鳳の叔母でもある。良妻賢母。

●史太君
(したいくん)

賈の後室。賈赦賈政の実母、宝玉の祖母。宝玉を溺愛する。内政面での賈家の家長。

●賈赦
(か・しゃ)

賈家の栄国邸当主、世襲侯爵にして一等将軍。かれんと迎春の父。息子には厳格らしいが、酒色に溺れ、家政を顧みない。

●賈元春
(か・げんしゅん)

宝玉の同母姉。金陵十二釵の一人。皇帝の貴妃。思いやりと教養に溢れた人物。賈家の繁栄の元。

●賈探春
(か・たんしゅん)

宝玉の異母妹。金陵十二釵の一人。道理に明るく、理知的で賢明。常識人。

●王煕鳳
(おう・きほう)


金陵十二釵の一人。かれん(宝玉の従兄)の妻。宝玉の母方の従妹でもある。気が強く、しっかり者。賈家の内政をを切り盛りし、人々の尊敬を集めるが‥‥。嫉妬心が強く、その為に悲劇が起こる。

かれん
(か・れん)

賈赦の息子で煕鳳の夫。栄国邸の表の財政担当。妻の目を恐れつつ、浮気を繰り返す。(それがまた悲劇の種ですが)

●賈巧姐
(か・こうそ)

金陵十二釵の一人。煕鳳の娘。物語の前半は幼児。後に難を受けるが‥‥。

●賈迎春
(か・げいしゅん)

宝玉の父方の従姉、かれんの異母妹。金陵十二釵の一人。大人しく控えめな少女。

●賈惜春
(か・せきしゅん)

宝玉の従妹、賈珍の妹。金陵十二釵の一人。絵画に優れるが、頑固で少々偏屈。

●史湘雲
(し・しょううん)

宝玉の再従妹。金陵十二釵の一人。孤児だが、明るくお茶目な性格。宝玉とお揃いの金の麒麟の飾りを持っている。

りがん
(り・がん)

金陵十二釵の一人。宝玉の亡き同母兄賈珠の妻。良妻賢母。一子に賈蘭がいる。

●妙玉
(みょうぎょく)

大観園に住む美貌の有髪の尼僧。金陵十二釵の一人。誇り高く、潔癖。秘かに宝玉を想う。

●秦可卿
(しん・かけい)

金陵十二釵の一人。賈蓉(賈珍の息子)の妻。舅との密会がばれて縊死する。

●賈珍
(か・ちん)

賈家の寧国邸当主。非常な色好みで、息子の嫁に手を出し、死なせてしまう。寧国邸は「汚れていないのは門前の獅子だけ」と言われている程の退廃ぶり。

●襲人
(しゅうじん)

宝玉付きの女中。本名は花珍珠だが、古詩を引用して宝玉が改名した。一途で温柔な性格。宝玉のお手付き。

せいぶん
(せいぶん)

宝玉付きの女中。黛玉に似た面影の少女。気転が利くが気が強く、その為に苑を追放される。病身をおして宝玉に尽くした宝玉の忘れ得ぬ女性。

●平児
(へいじ)

煕鳳の実家からの女中で腹心。情味溢れる美貌の女性。よく煕鳳の欠点を補う。かれんの妾でもある。


◎私の紅楼夢の読み方
 ‥‥って、偉そうなタイトルですが、戯言だと思って下さい。
 例えば「水滸伝」、最初は普通に読みます。何度目かになると、呉用の苦労物語として読むとか、高球のピカレスク小説として読んだりと視点を変えてみます。(そんなんするの私だけ?)すると案外見えにくかった側面が見えたりします。
 で、「紅楼夢」の場合ですが、煕鳳一家の浮気と嫉妬と経済の苦労話を中心に読むのも結構面白いのですが、宝玉の母親の王夫人を中心に据えると、かなり物語が違って見えます。これが意外に指摘されてないのが逆に不思議なのですが、王家による賈家の乗っ取り物語になるのですね。(こういう論文があったらすみません、私の不勉強です。)展開で言えば逆ですが、京極夏彦さんの某小説みたいな感じです。
 栄国邸の実質的な家長は次子の賈政です。しかし、賈政も実母の史太君には頭が上がりません。その史太君のお気に入りは宝玉です。賈政の後継者、また栄国邸の世襲者は恐らく宝玉でしょう。史太君は実の娘の忘れ形見の黛玉を宝玉の妻に考えています。
 栄国邸の内政の中心は賈政の妻の王夫人で、実務をこなしているのは長子賈赦の息子でかれんの妻、王煕鳳です。これは王夫人の兄の娘です。賈家に於いては王氏一族が力をもって来ているのです。勿論、それを次世代にも渡したい。つまり宝玉に自分の血縁を嫁がせたい訳です。それが王夫人の妹の薛未亡人の娘、薛宝釵です。
 史太君が黛玉を宝玉の妻に考えていたのは、多分に自分の血縁であるからだと思います。そういう意味では史湘雲も候補なのだと思います。
 人間的にみても宝釵は出来た女性です。しかし、王夫人が宝釵の方を好むのは、やはり血縁だと思うのです。栄国邸の「くさかんむり」世代を王家の血の入った人間にしたいのではないかなぁと思ってしまうのです。
 それに、王夫人はどうも黛玉が嫌いなようで、黛玉に似た腰元を迫害してます。
 ‥‥私はどうも、「王夫人影の悪役」説に憑かれている様です。

 まぁ、結構軽い気持ちで読んでも、かなり面白い小説です。是非御一読を!


 

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